メキシコ・タスコ旅行記 その3(最終回)

メキシコ・タスコで蟻に噛まれ、山をさまよい...筆者が見つけた温かい人間模様とは?

 

前回の記事で、山の中を彷徨い蟻に噛まれるもバスを待ちタスコに無事戻ってきた筆者は、すでに腹ぺこになっていた。というわけで、かなり早すぎる夕食をとるためにソカロ(街の中心広場)まで再びやってきた。

 

朝方のミサに参加したサンタプリスカ教会も夕方になるとシックな趣を帯びはじめる。

 

その正面にあるレストランで、名物であるCecina(セシーナ)をいただく。セシーナとは塩漬けにした肉のことで、薄切りにして焼いて供されるのが常だ。この店の看板メニューであるセシーナは牛肉のものであるらしい。早速オーダーする。

 

薄切りになったセシーナの他に、豆の煮物とワカモレ(アボカドを潰し野菜類と和えたもの)、サルサヴェルデと呼ばれる青唐辛子のソースとピリ辛のひき肉が巻かれたトルティーヤの揚げ物も一緒に大皿に載ってくる。これにトルティーヤもつくので、とてつもないボリュームである。

 

セシーナが塩漬け肉ということもあり、塩辛いパサパサした肉を想像していた筆者は、その味わいに驚かされた。確かにかなりしょっぱい。しかしそのガツンとした塩味の後に、肉の独特の旨味とジューシーな肉汁があふれ出てくるのだ。

 

肉は柔らかく、薄切りでも十分食べ応えがある。まさに、ご飯が進む、いやトルティーヤが進む味わいなのだ。一口一口を噛み締めるごとに旨味が溢れるセシーナは、筆者のメキシコ滞在の中でも五本の指に入る美味しさであった。

 

 

 

こうしてセシーナとトルティーヤをペロリと平らげた筆者は、さらにデザートにも美味しいメキシコならではのスイーツを満喫することにした。

 

こちらはテキーラアイス。メキシコの国民的なお酒テキーラをクリーミーなアイスクリームに仕上げた一品だ。味がわからないし、一番小さいサイズでいいや、と頼んでしまった筆者はとても後悔した…。このアイスクリーム、美味しすぎる

 

 

いわゆるラムレーズンのような感じで、洋酒とクリームが合わさっているのだが、ラムほどまどろっこしくなくスッキリしたテキーラの味わいが濃厚な牛乳の風味とベストマッチするため、いくらでも食べられてしまう。テキーラ味の他にも様々な味が日替わりで登場するそうなので、次回は別の味も試してみたい。

 

 

 

セシーナとテキーラアイスで存分にお腹を満足させた筆者は、メキシコシティへの手土産を探しに小さな露店が並ぶ市場へと向かった。

 

煉瓦造りの街並みを歩いていく。

 

通り雨のあとので市場は売る人と行き交う人の活気が伝わって来る。ここで筆者はタスコの人々の人情を感じさせる、ほっこりする場面に遭遇する。

 

 

 

珍しい果物があるかと果物屋さんの前でいろいろ見ていると、後ろから女性がやってきて、果物売りの女性に声をかけた。「ねえ、ペンか何か持ってないかい?」彼女たちは知り合いらしく、果物売りの女性は答える。「ないね。隣の隣で売ってるんだから買ったらどうだい」指さした方を見やると、文房具を集めて売る屋台があった。「それがさ、あいつとケンカしちゃって行きたくないんだよ」と客の女性が答える。どうやら(話を聞いている限りでは)ごく最近に文房具売りの女性とケンカをしたらしい。「なんだい、あたしが話してきてあげるよ」そう言って果物売りの女性はスツールから腰を上げ、客である(はず?)のわたしを完全に無視して、文房具売りの女性にお説教を始めた。とてつもない早口で何を言っているかわからなかったが、数分後には3人とも仲良くしているようでホッと一安心。とともに、他人の喧嘩に割って入ってしまうおせっかいさに心がほっこりした。

 

 

 

さて、市場をぶらりとしているとあっという間に日が暮れる。夜中のメキシコシティでの移動はあまり安全ではないため、早めにタスコを出ることにした。高速バスを待っていた子供に食べかけのドーナツをあげたりしてまた同じターミナルで待つ事数十分。Tasqueña(タスケーニャ)行きのバスに乗り込み、ふかふかシートに身体を埋めながら筆者は眠りについた。

 

 

 

と、ここでこのメキシコ・タスコ旅行記も終わるはずだったのだが、後日談(?)が二つほどある。

 

 

メキシコシティのタスケーニャ駅に着いた頃にはもう夕飯時は過ぎ、あたりは完全に夜の風景を見せていた。お腹が空いていたがタコスの屋台ももう直ぐ終わりだというように鉄板を洗っているし、某チェーン店でピザでも買って帰るか、と思いながら筆者はガラガラの地下鉄に揺られ帰路に着いた。最寄り駅から歩いていると、「お嬢ちゃん!お嬢ちゃん!」と呼ぶ声がする。今の時間帯にも物売りか、と思いつつ、何せ夜は危ないということばかり頭にあるので早足で振り切ろうとすると、「お嬢ちゃんってば!!!」と引き留められる。なんだよもう…とその人を見た筆者は驚いた。

 

 

このタスコ旅行記第1回序盤で登場した、筆者からタクシー代270ペソをぼったドライバーがいたのだ!!この期に及んで何の用だ、と思っていると、彼は胸ポケットから1枚の紙を差し出した。「これ、あんたの忘れ物だろ、今朝車の中で見つけたんだ」そこには、カタカナで「メキシコシティ」と書かれているしわくちゃの地図。紛れもなく筆者自身が使っていたものだが、タクシーの車内で落としたとは気づいてすらいなかった。「届けるために乗せたとこで待ってたんだ、これないと困るだろう、それじゃあね」そう言って彼は今朝私が乗ったものと同じ車に乗って走り去ってしまった。筆者は呆然としわくちゃの地図を手にしながら、もしかしたら、270ペソは安かったかもしれない、と思った。

 

 

そしてもう一つ。第2回で強烈な噛み跡を残した蟻であったが、筆者のメキシコ人の知人が次の日にとても心配してくれた。「何も塗ってないなら薬持ってくるね」と彼女が建物の奥に引っ込んでいったので、現地の人が塗るような薬なら邪悪な蟻の噛み跡もすぐ治るだろうと思い期待していた。そして彼女が持ってきたのは、ニンニクだった。ホールの、生の、ニンニク。アホか、いやアホ(ajo:スペイン語でニンニク)なんだけども、と一人でツッコミを入れていると、彼女はそれを二つに割り、断面を傷口に擦り付けるんだよ、と言った。明らかに痛いでしょ。しみるでしょ。

しかし彼女がせっかく持ってきてくれたんだし、メキシコの蟻にはメキシコの治療法が効くのかもしれない…と自分を納得させ筆者はニンニクを擦り込んだ。…痛い!!!!!!!!!!!!飛び上がるような刺激に耐えながら、いやこれが効くのかもしれないと笑顔を顔に貼り付けながら全ての噛み跡にニンニクを擦り込んだ。痛い。臭い。すると彼女は、「もっと持って行きなさいよ」と、カップにさらにニンニクを入れ渡してくれた。断ることもできず受け取ってしまった筆者は、市バスの中でニンニク臭を発しながら帰ることになってしまった。

 

 

 

 

それで、ニンニクの擦り込みが効いたかって?それにはイエスと言えないけれど、蟻に噛まれたり山の中でさまよってしまった旅行でもそれなりには楽しかった。メキシコシティを離れ、違う文化や歴史に触れるのも刺激的だった。あなたがどこに住んでいても、来週末は少し遠い、全然知らないところに出かけてみてはどうだろうか。高速バスでもいいし、船だっていい。下調べは、ちょっとだけするといい。わからなくなったら誰かに聞いて、どうにかしよう。いつもとは少し違った気分で、旅をしてみてはどうだろうか。

 

前回の記事はこちら

 

(文・高橋 茜)