TUFS Professor 国際関係と旅

TUFS Professor 第二弾!今回は、国際関係論をご専門に研究を重ねてこられた井尻秀憲教授に、「国際関係と旅」をテーマにお話をお伺いしました。北朝鮮にまつわる貴重な経験をお聞かせいただくことができました!

 

 今回、お話をお伺いしたのは東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授の井尻秀憲教授です。井尻教授は、東アジアの国際関係をご専門とされて、長年精力的に、研究活動に携わってこられましたが、今年で勇退なさいます。深い泉のように湧いてくる知恵と経験が詰まったインタビューを堪能してください。

 

(南アジアをご専門に研究されている藤井教授にインタビューした第一回はこちらから )

 

 

 

Q. 先生が今までで、一番印象に残っておられる旅の経験をお聞かせ願えますか。

 

 

 

 まずは北朝鮮。それから僕が四年半いたバークレー(カリフォルニア州)かな。それから、しょっちゅう僕はクリスマス・イブに、フランスへ行ったんですね。で、礼拝に行ったりとかして。あとは、僕はスキーが結構好きで、マッターホルンがすぐ近くにみえるツェルマット。これは一番いいところだと思うんですけど、ジーパンで滑りましたよ。スキーはアメリカでも、コロラドとか、シリコンバレー、そこでも滑りましたね。旅行では、イタリア、またイギリスに卒業旅行をしたんです。それから、ドーヴァー海峡を越えて、大陸に渡り、オランダまで行って、オランダ大学の宿舎に泊まり、そこから、ブリュッセルで降りて、国連関連の施設を見て。そしてそのあと、電車でウィーンまで行って、そこからツェルマットに行ったんですね。そのツェルマットから上がるには、電車で上がらなければいけないんです。前の方に見えるのがモンブラン、右側に見えるのがマッターホルン。この光景はすごいですね。やっぱり、アメリカのバークレーには4,5年いまして、印象に残っていますね。そんな感じなので、どれをいっていいかわかりませんが、一番衝撃的だったのは、北朝鮮だと思います。それから北京の中国大使館にもいましたから、北京にも思い入れはありますね。

 

 

 

Q. 北朝鮮への旅では、何を一番学ばれましたか?

 

 

 

 第一に、主体思想とは何かを学びましたね。主体思想の核心とは何か。その主体思想の核心がマルクス主義ではないということが分かったということですね。で、それはむしろ、若きマルクスの方に似ていて、疎外論を強調するフォイエルバッハという学者がいるんだけど、そこから来ているんだね、主体思想というのは。僕が言うには、朝鮮式の自立の思想だというのがわかっているわけ。ただ、それには日本の国体思想も入っているんですよ。ただ、それを思想と言いながら、イデオロギーとして使っているのが北朝鮮の現状です。

 

それから、金日成バッチは全員付けています。ただ、つけない時があるんです。それが、お客さんにサーブをするとき。そのときには作業服を着るけれど、そういうときにバッジをつけると金日成主席に失礼にあたるといわれている。これが一番衝撃的でしたね。そこまで神格化しているのかという意味でね。それから、外地には人の影が少ない。スローガンが記された垂れ幕がものすごく多い。トラックなんかで輸送していても、裸の兵士だけ。だから、モノや物資を輸送しているという光景が全然ない。少なくとも平壌を見る限りでは。ですから、そういう意味で、「冷めたスープのような世界」でした。いわゆる全体主義的な結果だからね。

 

中国との違いは、知識人を重要視すること。僕らが会った黄長燁という人が亡命するんだけど、その亡命の理由は、米中が結託して、金正日を落として代わりに彼を、いったん亡命した黄長燁をもとに戻すというシナリオだったわけ。で、そのシナリオは失敗したので、彼は帰らずに韓国で住んだということです。それは、私もずっと温めてきた問題で、ずっと書かないでいたのですが、結局彼が亡くなって数年たってますし、他の人とも相談して、そろそろ書いてもいいんじゃないかということで書きました。

 

 

 

Q. 北朝鮮には、いつ頃、行かれたんですか。

 

 

 

 1990年ですね。ですから、ちょうど天安門事件が起こった翌年なんですよ。ですから、北京を回るときも天安門広場にはいきました。それでキャタピラの跡や、戦争の痕を何度も見ました。ただ、タクシーの運転手に天安門事件のことを聞いても、最初は何も言えないって言っていましたね。でもやっぱり何か起きたでしょ?っていったら「目で見たことが真実だ」っていうんですよ。

 

 

 

Q. 最後に、国際関係を俯瞰したいと願う学生が多いと思うのですが、勧めたい旅のスタイルや、場所はありますか?

 

 

 

 理論的な問題や、学問的な問題をやるなら、アメリカかイギリスに留学するというのが一番いいですね。あとは、現地調査ということになると、それぞれの地域に行ったほうが良いですね。そして、日本人だと自分が実感するのは、いわゆるアイデンティティーという意味で、日本人を実感するというのは、外国に行ったときですね。だから、ゼミの人はだいたい全員出ますよ、外国に。

 

ゼミ案内/写真引用・http://www.tufs.ac.jp/research/people/ijiri_hidenori.html

  

 

Q. お忙しい中、インタビューに答えてくださりありがとうございました。

 

 

 

・インタビューを終えて

  

 現代の日本人があまり足を踏み入れたことのない、「未知」といってもよい国、北朝鮮。井尻教授の生き生きとした語り口から、そこに暮らしている人々の生活や生きざまを垣間見ることができました。実際に、その地に足を踏み入れた井尻教授の「冷めたスープのような世界」という言葉がとても印象的でした。世界では、毎日様々なニュースが報道されます。それらを自分の旅の道中と関連付けて考えることができれば、ただの「旅」ではなく世界情勢とあいまった、自らの財産となると感じました。

 

 

インタビュアー:ベンガル語科一年 手塚優希

 

 

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12月19日(現地時間)にベルリン・ブライトシャイト広場にて、トラックがクリスマスマーケットに突っ込み、12人が亡くなり、多数の方が重症を負う事件が起きました。

これを受けて、当初予定しておりました"Spazieren Mit Möwen" の北ドイツクリスマスマーケット特集は、掲載を見送らせていただきました。急な掲載予定の変更をお詫びするとともに、差し替えの記事を急遽書いてくださった手塚優希さんに感謝いたします。

亡くなられた12人の方々がどうか安らかであることを、そして、ドイツが焼き林檎の香りとグリューヴァインの湯気に包まれた穏やかなクリスマスを迎えることを、願っています。

 

堀川  夢