メキシコタスコ旅行記 その2

見知らぬ土地で遭難寸前!? 苦労の果てに出会った、ガイドブックに載らない絶景

 

 前回の記事から続き、急に思い立った高速バスの旅をしようと、メキシコシティから数時間の町タスコでなんか色々ありながらもほっつき歩いていた筆者。だがしかしいかんせんお腹がすいてきたので、タスコの町の中で食べるところを探すことに。

 

 そこで訪れたのが「ドン・フロイ」という庶民的な食堂。タスコでは誰もが知っている有名な場所で、「ポヨ(鶏肉)・ドン・フロイ」とも呼ばれるほど鶏肉のローストで有名。二階建ての大きな食堂で、鶏を焼き上げる窯の横でせわしなく働くおかみさんに、二階の眺めのいい席にどうぞ!と言われたので遠慮なく一番良い席を一人で使うことに。ランチは60ペソ(350円くらい)均一で、いろいろなメインに何種類かおかずとトルティーヤ、ドリンクまで付いてくる超良心的価格設定。

 

 人が入って食べてはまた忙しそうに出て行く、働く人たちの食堂という感じではあるものの、サービスも良くゆったりできる。

 やはり名物の鶏のローストが食べたかったので、鶏のランチに決定。キャベツのサラダ、豆を煮たもの、スパゲッティ、トルティーヤにぶどうジュースまでついてくるのでかなりボリューミーである。肝心の鶏肉はかなり大ぶり。皮目がパリパリに焼きあがっている甘じょっぱい味付けで、見た目ほどは辛くない。中の肉汁がたっぷりで、そのままでも、トルティーヤと一緒に食べても美味しい。

 この鶏肉は持ち帰りでも販売しているようで、いつでも買っていく人が絶えていなかった。あっという間に完食し、そのまま少しだけ居座って次の目的地を目指す作戦を練ることにした。

 

 

 次の目的地は、鍾乳洞である。全長2km(現在発見されている部分のみ)で、数十億年前から形成されてきたと言われるカカワミルパ鍾乳洞へ赴いてみることにした。

 バスを降りたターミナルに戻ると、カカワミルパ経由トルーカ行きのバスがちょうど出るところだったので、急いでチケットを買い乗り込む。このバスはメキシコシティからのバスとは異なり地方のバスなので、日本の観光バスのようなつくりである。席に腰を下ろすと、運転手が「カカワミルパで降りる人はいるかー?」と大声で乗客に聞く。どうやら私以外は全員トルーカに行くようで、すかさず手を挙げて「います!」というと、「オッケー、忘れるかもしれないから近くなったらリマインドしてくれ!」と大声で返される。

 

 いや、リマインドも何も私ここ初めてなんですが…と割と困った顔をしていると、隣に座っていた女性が、私が教えてあげるから近くなったら前に行って運転手に行って降ろしてもらいなさい、とアドバイスをくれた。運転手よりは頼りになりそうなので、かなりありがたい。バスは発車し、山道をこぼれそうになりながら進んで行く。1時間ほどすると、女性が私の代わりに、「降ります!」と大きな声で運転手に行ってくれた。何から何までありがたい。

 

はい、カカワミルパね、と降ろされたのだが…

 

何もない。

 

 鍾乳洞どころか看板すらない。道と、山しかない。周りに家のようなものはなく、車もたまに通る程度のど田舎に、一人で降ろされてしまったのだ。もちろん携帯は使えないし、どちらに行けば鍾乳洞にたどり着けるのかすらわからない。そもそも地球の歩き方にカカワミルパの地図は載っていないのだから…。

 

 しかしここで立ち止まっているわけにはいかない。どうにかして鍾乳洞にたどり着こうという信念のもと、私は完全な勘で歩き始めた

 

着かない。

 

 30分ほど歩いただろうか。すれ違ったのは繋ぎとめられている家畜くらいだった。悲しい。悲しすぎる。何が楽しくてこんな山の中でどこにあるかわからないもののために歩かなくてはならないのだろうか、自分がここで行方不明になったら誰か見つけてくれるのかしら、と妄想を膨らませながら歩を進めていると、看板が見えてきた!

45分ほど歩き、ようやく青看板を見つけることができた。

 以後看板に沿って歩いていくと、

Parque Nacional(国立公園)と書かれたアーチが見えてきた。

でも、なんかしょぼい。

  寂れているし、そもそもあまり人がいない。観光客、と言ってもメキシコ人の家族旅行のついでに訪れるだけのような場所らしく、外国人らしい人の姿は全くなかった。

 鍾乳洞もしょぼいのかもしれないな、と期待度を下げつつチケットを買いガイドについて鍾乳洞に入ると、そこにはまさに別世界が広がっていた。

 ひんやり、しっとりとした空気に包まれた鍾乳洞には明かりがないため、ガイドの持つ強力な懐中電灯で照らしながら濡れた地面を歩くことになる。ガイドはスペイン語のみだが、面白い話や鍾乳洞の歴史などを話してくれる。2kmの道のりはかなり長いため途中で引き返す人もある程度いるようだった。

 

 首が痛くなるほど高い天井に、どこまでも広がっているように見える鍾乳洞はしょぼいアーチからは想像もつかないほどの年月と保存環境の集大成であると感じた。光の当て方によっては様々なものに見える岩がたくさんあり、個人的にはゴジラのような形の鍾乳石がお気に入りだ。

 帰りはガイドがつかないので、ゆっくり足元に気をつけながら自分で帰ってくることになる。人が少なく、鍾乳洞が大きいので観光地然とはしておらずむしろ自分が鍾乳洞を探検しているような気分になれるコースだった。調子に乗って鍾乳洞の中を歩き回りすぎてしまった筆者は、これからとんでもない試練に巻き込まれるとは想像もしていなかった…

 

 

 さて、どうやって帰ろう。タクシーに乗るという誘惑を振り切り、バスで帰る術を探すためお土産屋さんのおばちゃんに聞いてみる。

「すいません、タスコに帰りたいんだけどバスはどこから乗ればいいの?」

「この道をまっすぐ行くとバスの看板があるから、そこがバス停だよ!」

 

さっき降りたところと違うじゃん…

 

 とにかく、おばさんの指示通りにバスの看板にたどり着くと、先客がいた。カカワミルパエリアに住む家族のようで、トルーカに行くらしい。

 

「タスコへのバスもここで待っていればいいんですか?」

「いや、タスコに行きたいなら道の反対側で待たなきゃ。40分間隔くらいでくるはずだよ」

 道の反対側に目をやると、断崖絶壁。そこにバスのマークの看板が差してあるだけの質素すぎるバス停があった。屋根すらない。道を渡り、いつ来るかわからないバスをそこで待つことにした。もちろん周りに何もないので時間を潰す手段はない。

 岩肌に腰掛けて退屈に過ごしていた筆者に、小さな、しかし強力な影が忍び寄っていた…

 

蟻だった。

 

 気がつくと筆者の足は蟻にまみれていた。小さな黒い粒々が足の上を這いまわっていた。ただ単に蟻が昇ってきただけかな、と考えた筆者は手で払い、脚を見ると見事にまだらに噛まれていた。しかも、日本では見たことのない種類の蟻である。外大の巨大蟻(東京外国語大学府中キャンパス周辺で目撃されている蟻のこと)に大きさこそ負けるが、噛まれた後の痛さではかなりの毒性を持つものではないかと推測された。

 とりあえず噛まれたところを洗いたい、と思った筆者だったがここでバス停を離れてしまうとバスを逃してしまうかもしれないという懸念から、蟻に耐えつつバスを待つことにする。40分経った。50分経った。バスは来ない。蟻は来る。これぞまさに蟻地獄だ、と思いながら1時間と少し経過したところでタスコ行きのバスが通りかかり、無事バスに乗ることができたのだった。この時には筆者の脚はホラー映画さながらの形相となっていた。せめて蟻の写真を撮っていれば筆者の恐怖が少しでもお伝えできたのだが、残念ながらそこまでの余裕はなかった。

 

 

 鍾乳洞までの謎のさまよいと蟻の試練をなんとか乗り越えた筆者はタスコに戻り、夕食にはサンタ・プリスカ教会を臨むレストランでタスコのご当地グルメとスイーツを味わい、タスコの町の人々の人情に触れる出来事に遭遇する。最後まで盛りだくさんすぎる旅、次回もお楽しみに!

 

 

(文・高橋茜)