Some Years Later... OB・OGインタビュー 第一回

「行ったことも見たこともない国のことをイメージだけで危ないと決めつける、その感性のほうが危ないんじゃないか」

外大卒業後それぞれの道を歩むOB・OGの方々に「思い入れの強い国・地域」を語ってもらい、その人生をひもとく新企画「Some Years Later」。第一回目の今回は大学での5年間で3社起業し、現在は外国人材に特化した人材紹介会社「株式会社Sociarise」の代表取締役を務める中村拓海さん × パキスタンです。

 

 

中村 拓海さん × パキスタン

 

受験に失敗し、一人自転車にまたがり放浪の旅に出た。途中立ち寄った山梨で、あるドキュメンタリー番組に出会う。3才の弟を背負い、アフガニスタンからパキスタンへ、生き延びるためにカイバル峠を越えた17才の女の子。勉強から逃げて山を越えてきた自分との差を突きつけられ、立ち尽くした。

 

パキスタンの言葉を学ぼう。

外大のウルドゥー語科に入学し、3年生の春に1年間の休学を申請、単身パキスタンに渡った。外大生ですらほとんど行く人のいないパキスタン、情報はゼロに等しかった。Facebookで呼びかけると、ラホールにいるパキスタン人の友人を紹介してくれるという人が現れた。

 

友人の友人・ノシェさんの家にお世話になり、彼に連れられて3ヶ月間ラホールのあちこちを見てまわった。国立大学NUMLに日本語科があると知り、遊びに行ったときのこと。日本に行くことを夢見、意欲的に日本語を学んでいる学生が40人近くいたが、パキスタン人のビザの取得は非常に難しいという。法律的な足かせがあるのかと思いきや、原因はなんと書類不備。中村さんが細かくチェックし、訂正した書類を提出した結果、すんなり許可が下りた。パキスタン人の仲間と共にビザ申請の代行サービスを開始し、会社を設立。業績は好調で、中村さんが手を引いた現在もなお、日本へ渡るパキスタン人にサービスを提供し続けている。

 

 

ある程度土地勘がついてパキスタンでの生活に慣れてくると、一人でリキシャに乗って好奇心の赴くままに動きまわり、危ないと言われているところにも積極的に行くようになる。人が集まる首都イスラマバード、アフガニスタン国境に近いペシャーワル、経済都市カラチ…「本当に危ないのか、自分の目で見てみたかった」。

 

ペシャーワルでは一般人の生活に溶け込む銃の存在に危なさの片鱗を見たものの、中村さんが訪れた場所のほとんどは普通に暮らすぶんには問題のない街だ。「日本人はパキスタンと聞くだけでものすごく危険な国というイメージをいだきがち。たしかに気をつけなければいけないことはたくさんあるが、国中が危険というわけではない」。

 

 

自然豊かな都市・フンザはかつて日本人が上下水道を整備し、有機農法を伝えた歴史があり、現在でも非常に親日的だ。日本人が訪れることは滅多にないにもかかわらず、店の軒先には日本語の説明書きが掲げられていたりする。名作「風の谷のナウシカ」の舞台になった場所なのではとささやかれるほどの美しい場所で、中村さんの一番のお気に入りだ。

 

ジャガイモでつくるチャパティのような「パラーター」、砂糖を揚げたお菓子「ジャレービー」、チキンカラーヒーにチーズナン。世界一おいしいと言われるマンゴー。絶品料理から日本では到底お目にかかれそうもないゲテモノまで、食事も豊富にそろっている。

 

 

そんな魅力あふれるパキスタン。中村さんにとって、一番の魅力はなんだろう。

 

「なんでもできること。なんでもできちゃうこと。これに尽きるかな。パキスタンでは何でもアリだから」

 

何でもアリ。

 

果物が驚くほど安い。スイカをまるごと買ってきて、一口食べてみる。甘かったらそのまま食べるが、甘くなければ部屋の窓から思いきり外に投げ捨てる。小気味いい音を立てて裏庭に落ちたスイカは、犬やカラスの朝ごはんだ。

 

レストランでメニューを指差し「上から下まで全部ちょうだい」と言ってみる。満足して会計を頼むと、日本円にして1,000円前後。ピザは1枚250円程度で、デリバリーは無料。国際電話は1分約12円。あまりの安さに、気まぐれにイタズラ国際電話をかけてみたことさえある。

 

パキスタンにやってくる日本人はほとんどいない。「日本からきた」というだけで珍しがられ、喜ばれ、かわいがられる。工場を見学させてもらうことも、カフェでコーヒーをタダにしてもらうことも、魔法のことば「日本から来たんだ」を使えば可能なのだ。

 

日本にいては想像もできないようなこと、やろうとも思わないようなことが、パキスタンではできてしまう。まさに「何でもアリ」だ。

 

国が変われば常識も変わる。実際に足を運んでみなければ、自分の目で見てみなければ、現地に住む人々とことばを交わし、その国のなかで生活してみなければわからないことが、たくさんある。

 

「パキスタンは危ないって、みんな言う。実際に行ってみたわけでもないのにね。よく知りもしない国のことをイメージだけで危ないと決めつける、その感性のほうが危ないんじゃないかと思うよ」

 

外務省の海外安全ホームページは、パキスタンをこう語る。「不要不急の渡航中止」「渡航中止勧告」、一部は「退避勧告」。

 

中村さんの目にうつるパキスタンは、「なんでもありの楽しい場所。今すぐにでも帰りたい」。

 

あなたの、そしてわたしたちの目にうつるパキスタンは、どうだろうか。

 

どうなりうるだろうか。

 

 

 

中村 拓海(なかむら たくみ) さん

2015年度ウルドゥー語科卒

在学中に友人と英会話カフェ「E-Cafe Moris」を運営し、

また学内で立ち上げた投資サークルは全国紙の一面を飾った。

大学での5年間で3社起業し、うち2社は売却。

現在は外国人材に特化した人材紹介会社「株式会社Sociarise」の代表取締役を務める。

右から会えます。 https://www.facebook.com/takumi.sato1

 

 

(文・三橋 咲)