外大生と巡る世界のことば【第5回】ルーマニア語編

東欧に位置しているにも関わらず、言語系統はイタリア語やスペイン語等と同じ...少し個性的なルーマニア語を解説。

皆さん、こんにちは。

長かった夏学期をはさみ、久しぶりにこの世界のことばシリーズを書くことになりました。

 

さて、秋学期最初に紹介する言語はルーマニア語です。多くの人、とりわけ読者の大多数を占めるであろう日本人、にとっては、ルーマニアという国はそれほど馴染みのある国というわけにはいかないでしょう。なぜルーマニア語というチョイスなのか、興味深い理由としてはその源流にあります。

 

周知の通りルーマニアは東欧に位置し、周囲をハンガリーやブルガリアなどウラル語派やスラブ語派の国に囲まれています。ところが、ルーマニア語は今までに紹介をしたイタリア語やスペイン語などと同系統であり、ラテン語から派生をしたイタリック語派に属するのです。

イタリアやスペイン、ポルトガルなど西ヨーロッパから地理的に離れているのにもかかわらず、言語系統が同じだというのは面白いとは思いませんか。

 

一方で、このような言語的多様性を抱くバルカン半島にあっては、それらの言語の影響を受けるのは当然というもの。ルーマニア語は他のロマンス諸語(ラテン語を母体とする諸言語)と比べても独自の発展を遂げたといわれます。とりわけ、ブルガリア語などスラブ語派の影響は大きなものであったようです。

例えば、ルーマニア語で肯定の返答を示すda「はい」やprieten「友達」などにはその影響を見てとれるのですよ。

さて、ルーマニア語の言語的特徴について述べることにしましょう。

 

前述のように、ルーマニア語はラテン語を母とする言語ですから、使用する文字はいわゆるアルファベットが基本となります。

これらアルファベットに、いくつかの補助記号をつけた文字を含めて、ルーマニア語の文字が組織されています。例えば、ă ț ș などです。

 

文字は簡単そうですね。次は発音です。

実はルーマニア語の発音はとてもわかりやすいのです。

ロマンス諸語の中でも、フランス語のように独自の発音体系があるわけではなくて、つまり1文字が1音を表すので、スペイン語などのように原則的には文字をそのまま発音すればいいというわけです。

 

例を挙げましょう。

次の文は「あなたはルーマニア出身です。」という意味です。発音してみましょう。

Dumneavoastră sunteți din România. (ドゥムネアヴォアストラ スンテツィ ディン ロムニア)

 

ă「ア」 ți「ツィ」 â「ウ」の音です。これら特殊文字はアルファベット同様覚えてしまえば済む話です。例外的な読みはないのです。

ただ、発音について厄介なのはアクセントの位置で、これは英語同様、ひとつひとつの単語ごとに覚えなくてはいけません。実際的なアクセント規則がないのです。

 

さて、文字と発音はさほど煩わしくないことが理解できたところで、文法に入りましょう。

文法についてはスペイン語やイタリア語などと共通する点が非常に多いというのは推測されると思いますので、適宜スペイン語編やイタリア語編を参照ください。

まず、ルーマニア語の名詞ですが、文法的な性別として男性・女性に加えて中性をもっています。もちろん、識別の基準となる語尾がきちんとあるので、性別の判断はそれほど大変ではありません。

ルーマニア語の名詞の一番厄介な点は、古き良き(?)格変化を残しているという点です。(格変化についてはサンスクリット語編などを参照して下さい)

 

とはいえ、ラテン語やサンスクリット語の格変化に比べて、覚えるべき変化は多くはありません。例えば、不定冠詞や定冠詞を変化させて属格や与格を表すなど極めて単純な変化です。

 

ルーマニア語の格は主に主格、属格、与格、対格、呼格で構成されます。そして動詞、これは他のロマンス語同様、1~3人称の単数・複数にそれぞれ活用形があり、ひとつの時制に対して6通りの変化をもちます。

 

ただ、ルーマニア語の動詞活用について厄介なのは、頻繁に母音交代という現象を引き起こすことです。例えば、発音の都合上、本来の活用規則であればeの音となるところがeaの音に変わったりするということです。とはいえ、これは慣れてしまえば直感でわかるようになるものです。したがって、動詞はあまり問題ないと思われます。

 

そして形容詞は他のロマンス諸語同様、修飾する名詞の性・数に一致します。

例:un parc frumos(ウン パルク フルモス)「きれいな公園」

o țară frumoasă(オ ツァラ フルモアサ)「美しい国」

unは不定冠詞の男性形、oは不定冠詞の女性形です。

 

さて、ルーマニア語にももちろん冠詞は存在し、不定冠詞と定冠詞の2つがあるわけですが、ここで冠詞に言及をしたのは、面白い特徴があるからです。

なんとも珍しい(と私は思いました)ことにルーマニア語の定冠詞は後置冠詞なのです。つまり、例えば男性名詞・単数形につく定冠詞のひとつは「-ul」なのですが、elev「生徒」という単語を定冠詞付きで表現するとelevul「その生徒」となるのです。

このように後置冠詞をもつ言語としては私はルーマニア語が初めての遭遇となりました。

 

 

さて、そろそろ尺が足りなくなってきました。最後はルーマニア語の時制について話して幕を降ろしましょうか。

まず、ルーマニア語の法の数は4つです。ちなみに法というのはかいつまんで説明すると、話者の心的状況を表した概念です。例えば直説法であれば事実をそのまま伝える法であり、仮定法であれば話者にとって仮定的な(非現実的な)内容を伝えるといったように。

そして、その4つとは直説法、条件法、命令法および接続法です。フランス語と同じなのですね。

 

時制については、まず直説法の現在、半過去、複合過去、大過去そして未来、条件法の現在、過去、接続法の現在、過去、最後に命令法の現在があります。

 

…と、相当駆け足でルーマニア語の言語的特徴について述べてきましたが、いかがでしょうか。概略を伝えるだけがこの記事の目的なので、物足りないという読者の方もいるでしょうし、反対に文法用語が多過ぎて嫌になるという方もいるでしょう。

それらの調整をどうするかは置いといて、とりあえずルーマニア語、どうでしょう。とても興味を惹かれる言語ではないでしょうか。

話者は2600万人いますし、EUの公用語にもなってますから、この機会にちょっとかじってみたらどうでしょうか。

 

さて、今回は以上になります。何か質問・ご要望などありましたらSNSなどを通じてお気軽にご連絡下さい。

 

 

(文・加瀬拓人)